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【会長声明】オンライン接見の実現を求める会長声明

1 現在、法務省に設置された「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」(以下、「本検討会」という。)において、刑事手続のIT化についての議論が進められている。
  本検討会では、刑事手続について、情報通信技術を活用する方策に関し、現行法上の法的課題を抽出・整理した上で、その在り方が検討されている。

2 本検討会における論点項目としては、「書類の電子データ化、発受のオンライン化」「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が主に挙げられており、この中に被疑者及び被告人(以下、「被疑者等」という。)との接見交通が掲げられている。

3 現在、日本弁護士連合会では、逮捕段階における公的弁護制度の創設が議論されている。逮捕段階から充実した弁護活動を可能にするためには、逮捕されて間もない時期における迅速な接見が必須である。また、被疑者の防御権を保障する観点から、適時かつ頻回の接見が必要となる。
  そもそも、接見交通権は、憲法第34条前段の保障に由来するものであり、身体拘束された被疑者等が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な権利に属するものであるとともに、弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの1つである(最判昭和53年7月10日民集32巻5号820頁)。
  いくら憲法の保障に由来する重要な権利とはいっても、現実に被疑者等が弁護人又は弁護人となろうとする者と迅速かつ容易にアクセスできない客観的状況にあれば、その権利は保障されていないに等しい。

4 鳥取県は東西に長く、大きく3つの地域に分けると、鳥取市を中心とする東部地区、倉吉市を中心とする中部地区、米子市を中心とする西部地区に分けられる。鳥取県においては、令和5年3月までは、被疑者等は男女とも、勾留場所となる各地区の警察署に留置されていたが、同年4月以降、女性被留置者については、琴浦大山警察署に集中留置されることとなった。
  現在、女性被留置者が集中留置されている琴浦大山警察署は、中部地区内にあり、倉吉市のやや西側、東伯郡琴浦町に存在する。琴浦大山警察署と本来の勾留場所である各地区の警察署は、鳥取警察署で約58km、倉吉警察署で約24km、米子警察署で約30kmも離れている。全国的に見れば、接見先の警察署が弁護士事務所の所在地から数十km程度離れていることは珍しくない。しかしながら、接見に直ちに対応できる弁護士の数が大都市に比べて少ないこと、公共交通機関が十分に整備されておらず、接見先の警察署への移動手段がほぼ自家用車に限られることなど、地方特有の問題点に鑑みると、鳥取県においては単純に距離だけでは測ることができない接見の困難さが存在する。
  これまで、鳥取県内の各地区の弁護士が、勾留場所となる警察署に留置された被疑者等と接見する場合には、十数分で接見に赴くことができたにもかかわらず、女性被留置者が琴浦大山警察署に集中留置されたことにより、接見に相当の時間を要することとなった。また、適時かつ頻回の接見も極めて困難な状況となった。
  このような状況を改善するためには、オンライン接見の実現が急務である。

5 オンライン接見に対しては、本検討会において、その実現のための人的・経済的コストの負担、なりすまし等の危険、その必要性がない等の消極理由が挙げられている。
  しかしながら、接見交通権は被疑者等に認められた権利であるところ、国費を投じて人的・物的整備を行うのは当然のことである。また、アクセスポイント方式を採用した現行の電話連絡制度や電話による外部交通制度において、なりすましや証拠隠滅を図るなどの報告はなく、何ら問題なく運用されているものであり、なりすまし等の危険については杞憂である。
  また、オンライン接見の必要性がないことについては、日本弁護士連合会の国選弁護本部で、全国の弁護士会にオンライン接見の必要性の調査を実施したところ、拘置支所の廃止や収容停止、女性や少年の集中管理、支部における人員不足等、その理由は地域によって異なるが、オンライン接見の必要性を唱える弁護士会が大多数を占めた。そして、現在、全国各地の弁護士会において、オンライン接見の実現を求める会長声明が続々と発出されている状況にある。このように、全国的にオンライン接見の必要性が存在することは明白な事実である。

6 刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者等の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。当会は、本検討会において、オンラインを活用した接見交通の実現に向けた議論が進められることを期待する。

以上

2023年(令和5年)7月5日
鳥取県弁護士会
会長 房安 強

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