1 政府から独立した国内人権機関の設置について
国連加盟国である日本は、自由権規約や社会権規約、女性差別撤廃条約や障害者権利条約、児童の権利条約など様々な国際人権条約を批准し、国会がこれを承認しています。これら条約は国際的な人権基準を示すものです。
こうした国際的な人権基準を国内で実施するため、1993年(平成5年)、国連総会は、国連加盟国に対し「国内人権機関の地位に関する原則(「パリ原則」)」に基づく国内人権機関の設置を求める決議を採択しました。
国内人権機関は、裁判所とは異なる、人権侵害からの救済と人権保障を推進するための国家機関です。その役割は、人権侵害事実を調査して簡易迅速に救済することや、国の立法や行政が国際的な人権基準に沿うものになるよう提言したり、一般市民のみならず裁判官等に対しても広く人権教育を行ったりすることです。国内人権機関の設置により、裁判所の司法手続よりも簡易迅速な救済が可能となり、また、立法の不備による人権侵害に対しても国にその回復を提言できるなど、裁判所にはない役割が期待されます。
確かに、日本には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度がありますが、法務省の監督下にあり、政府からの独立性が確保されていないため、公権力による人権侵害に対してはきわめて脆弱、あるいは無力となるおそれがあり、国民の信頼を得るには不十分です。
この点、パリ原則は、1)国内人権機関には人権を伸長及び保護する権限が付与されること、2)できる限り広範な職務を与えられ、その構成と権限の範囲は憲法または法律で定められること、3)人権の促進、保護に関するあらゆる事柄について自らの権限で政府、議会等に対して意見、勧告、提案及び報告を提出すること、4)構成員の任命は人権にかかわる社会集団の多元的な代表を確保できる手続によって行われること、5)活動を円滑に行える基盤、特に財源をもち、政府の財政統制の下に置かれず、自らの職員と建物を持つことができること、6)真の独立の前提である構成員の安定した権限を確保するため、一定期間を定めた公的な決定により任免されること、7)自由に検討、調査、協議し、司法その他の機関と協議し、広報し、NGOとの関係を発展させること、8)調停を通じての解決を図ること、9)法律、規則、行政慣行の改正や改革を勧告することを求めています。法務省人権擁護局の人権擁護委員制度はパリ原則に準拠したものではありません。
国際人権理事会や自由権規約委員会、児童の権利委員会等の国連人権条約諸機関は、国連加盟国である日本政府に対し、再三にわたり、パリ原則に則った国内人権機関を早急に設置することを求めていますが、日本はいまだに国内人権機関を設置していません。
政府から独立した国内人権機関を設立することは、国連が加盟国に求める国際的な人権基準を国内で実行するために不可欠なシステムです。日本国憲法第98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と定めています。そして、日本政府は、2008年(平成20年)6月の国連人権理事会において、パリ原則に基づく国内人権機関の設立を求める勧告をフォローアップすると表明しています。
よって、当会は、日本における国際的な人権基準の実施を図るため、国に対し、パリ原則に準拠した、真に政府から独立した国内人権機関の設置を求めます。
2 個人通報制度の早期導入について
自由権規約や社会権規約、女性差別撤廃条約や障害者権利条約、児童の権利条約などの国際人権条約では、締約国における国際的な人権基準の実施のために、選択議定書による個人通報制度が採用されています。
個人通報制度とは、国際人権条約で保障された人権の侵害を受けた個人が、各人権条約で定める機関に対し、直接これを通報することによって救済を求める制度です。国内で裁判等の救済手段を尽くしてもなお救済されない場合に利用できます。通報を受理した条約機関は、審理を行い、通報に対する見解を出します。見解には法的拘束力がありませんが、国内外の世論を高めることで人権侵害の救済を目指します。
残念ながら、日本の裁判所は、国際人権条約に基づく人権保障条項の適用には積極的ではなく、民事訴訟法上の上告理由にも国際条約違反が含まれていないため、国際人権基準の国内での実施がきわめて不十分となっています。個人通報制度が実現されれば、国際的な監視の下で、日本の裁判所も国際的な条約の解釈に目を向けざるをえず、結果として日本での人権保障水準の向上が期待されます。
日本は多くの国際人権条約を批准していますが、個人通報制度を定めた選択議定書については一つも批准していません。G7サミット参加国では唯一、またOECD加盟国では日本とイスラエルだけが何らの個人通報制度も持たない国となっています。
よって、当会は、日本における国際的な人権基準の実施を図るため、国に対し、個人通報制度の早期導入を求めます。
以上
2018(平成30)年9月28日
鳥取県弁護士会
会長 駒 井 重 忠