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【会長声明】司法修習制度における「谷間世代」の不平等の是正を求める会長声明

1 司法権は、国家の三権の一翼として、法の支配を実現して国民の権利を擁護するという不可欠な役割を有している。そして、この司法権を担うのは、裁判官、検察官及び弁護士の法曹三者であり、高い資質を持った法曹の養成は、国家としての責務である。
  そこで国は、司法試験合格者に一定期間(現在は約1年間とされている。)の司法修習を義務付け、この司法修習期間中に、将来の進路にかかわらず、等しく法曹三者の実務を学ぶものとした。この間、司法修習生には厳格な修習専念義務が課せられ、アルバイト等の副業は禁止される一方で、国からは修習期間中の生活資金として給与の支給がなされていた。

2 ところが、司法制度改革の中で、2011年(平成23年)採用の新第65期司法修習生から、司法修習生に対する給与の支給が打ち切られた。
  一方で、司法修習生に課せられた修習専念義務(及び副業等の禁止義務)は維持されており、司法修習生は修習期間中、収入を得られない状況となった。そこで、自前で修習資金を用意できない司法修習生は、修習期間中、国から資金の貸与を受け、修習終了後に自らの出捐において返済することを余儀なくされることになった。

3 しかし、前記のとおり法曹の養成は国の責務であるところ、無給で司法修習を課すことの問題点が指摘されたことから、2017年(平成29年)に裁判所法が改正され、同年以降の司法修習生については、再び、国からの修習資金の給付(司法修習給付金制度)がなされるようになった。
  ところが、2011年(平成23年)から2016年(平成28年)までの間に、無給で司法修習を受けた者(新第65期ないし第70期司法修習生。いわゆる「谷間世代」。)については、現在まで、国から何らの救済措置も取られない状態となっている。
  このような状況を踏まえて、当会では、2018年(平成30年)5月に、「谷間世代に対する国の救済措置を求める会長声明」を発出し、司法修習の谷間世代の不平等に対する是正のための立法措置を求めたものの、現在まで実現されていない。

4 司法修習における谷間世代についても、現在、他の世代と等しく、法曹として、法の支配の実現及び国民の権利擁護のために活動しているところである。
  弁護士となった者は、日々の職務に際して、人権の擁護や社会的弱者の救済のために積極的に努力している。特に、近年の大規模自然災害や、新型コロナウイルス禍により困難を抱えた人々のために献身的に活動している者も多い。
  しかるに、2021年(令和3年)に日本弁護士連合会が行った谷間世代の弁護士に対するアンケートでは、貸与金の返済という経済的な不安・負担から、公益的な活動に十分に取り組めていないとの声も寄せられている。
  弁護士としての活動に際して、それを支える経済的基盤は無視できないところ、貸与金の返済という経済的な事情が、国民の基本的人権の擁護及び社会正義の実現という弁護士としての職務の足かせになるような状況は、国としてあるべき姿ではない。

5 国による是正措置がない中で、谷間世代の不平等及びそれに伴う弊害を看過することはできず、そのため当会では、独自に、谷間世代である当会会員に対し、経済的支援として、10年間で総額最大120万円を給付する制度を設けている。
  しかし、かかる給付金については、谷間世代の要した修習資金の一部について支援するものに過ぎない上、あくまで、当会の会員から集めた会費を原資として、会員間の相互扶助制度として実施されるものであるから、谷間世代の制度的な問題を根本的に解消するものではない。

6 繰り返しになるが、司法修習制度は、修習専念義務を課した上で、国の司法権を担う法曹を養成する制度であるから、国の責任において司法修習生が修習に専念できるよう、経済的な手当てがなされるべきであった。
  それにもかかわらず、給費制と貸与制の間で揺れ動いた制度の狭間で、谷間世代が経済的に不合理な不平等を強いられている現実があるならば、これを是正することもまた、国の責務である。
  この点については、2019年(令和元年)5月30日の名古屋高等裁判所における給費制廃止違憲訴訟控訴審判決でも、「谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」との指摘がなされているところである。

7 以上を踏まえ、当会は、司法修習の谷間世代の不合理な不平等を解消すべく、国に対し、修習資金相当額の一律給付や、司法修習時の貸与金の返還免除など、その救済のための立法措置を求め、本声明を発出するものである。

以上

2023(令和5)年3月30日
鳥取県弁護士会
会長 西 川 文 雄

 

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