第117話~第120話
「61 つい先日保釈が認められたんだ」~「63 愛をもって実務に携わる我々は強く望む」
第117話~第120話
「61 つい先日保釈が認められたんだ」~「63 愛をもって実務に携わる我々は強く望む」
「61 つい先日保釈が認められたんだ」
~被告人美位子が法律事務所に居候できたわけ~
「61 つい先日保釈が認められたんだ」
~被告人美位子が法律事務所に居候できたわけ~
連載プロジェクトチームの足立珠希です。
117話では、尊属殺人で起訴された斧ヶ岳美位子が保釈され、山田轟法律事務所に居候していました。
今回は、保釈について解説します。
保釈とは、勾留された被告人が保釈金を納めることを条件として釈放される制度です。
捜査中に逃亡や罪証隠滅のおそれがあるとして勾留された被疑者は、起訴された場合、被告人勾留に移行し、身柄拘束が継続します。
しかし、捜査が終了して起訴された後は、捜査機関は証拠の確保が済んでいるので、罪証隠滅や証人威迫のおそれは捜査中に比べて格段に減少します。被告人には無罪の推定が働きますし、身柄拘束の継続は被告人に重大な犠牲を強いるものなので、他の手段で目的を達することができれば身柄拘束は回避されるべきです。
そこで、起訴後には、被告人に保釈金を納付させ、被告人が裁判に不出頭の場合や保釈条件を守らない場合には保釈金を没取するという条件で被告人を威嚇することで、被告人を暫定的に釈放します。
このような保釈の趣旨から、保釈請求があった場合、法定の除外事由がなければ、保釈を許さなければならないのが原則です(刑訴法89条、権利保釈)。
また、除外事由(一定の重罪など)があり権利保釈が認められない場合でも、裁判所は、被告人の逃亡・罪証隠滅のおそれの程度、身体拘束継続により被告人が受ける様々な不利益の程度などの事情を考慮し、職権で保釈を認めることができます(90条、裁量保釈)。
美位子の罪は殺人なので権利保釈は認められませんから、美位子は裁量保釈されています。
裁判所は保釈中の住居を制限することができるので(93条3項)、山田轟法律事務所が制限住居に指定されたのでしょう。身元引受人もよねと轟かもしれません。
ドラマでは美位子がどのように保釈金を用意したか描かれていませんが、裁判所が認めた場合、第三者が保釈保証書を差し入れることで保釈金の納付の代わりになります(94条3項)。もしかしたらよねや轟が保証書を差し出しているかもしれません。
現在は、全国弁護士協同組合連合会が保釈保証書を発行する事業があります(利用には審査があり、手数料が必要です。)。
(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)
「62 被告人に対し刑を免除する」
~違法な襲撃に対する反撃が、正当と言えるためには~
「62 被告人に対し刑を免除する」
~違法な襲撃に対する反撃が、正当と言えるためには~
連載プロジェクトチームの清水奈月です。
虎に翼第118話では、虐待を受け続けた美位子が実父を殺害した事件の第一審判決が、過剰防衛として刑を免除するというものになりました。
今回はこの過剰防衛と、その前提となる正当防衛について紹介します。
たとえば道を歩いていたら突然襲われ、反撃したとします。この反撃は、刑法が定める犯罪の類型としての傷害罪や暴行罪などに該当し、本来は違法です。
しかし、違法な襲撃に反撃できず、やられっぱなしだと、自らの正当な利益への侵害を受け入れることを、強制することになってしまいます。そこで、危険が差し迫る場合の反撃を、正当防衛として、犯罪が成立しないことにしたのです。
正当防衛となるのは、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為」(刑法36条1項)です。一見シンプルなこの条文には、難しい要件が詰まっています。
例えば、将来の侵害を見越して先制攻撃を加える行為については、「急迫不正の侵害」がなく、正当防衛は成立しないとされています。
この点について、「当然又はほとんど確実に侵害が予期されたとしても」ただちに急迫性は失われないが、「単に予期された侵害を避けられなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだとき」は、急迫性が失われて正当防衛は成立しないというのが最高裁判例です(最判昭和52年7月21日)。非常にあてはめるのが難しい微妙な問題です。
また、ほかの要件は満たすものの「やむを得ずにした行為」とは言えない場合は、過剰防衛(36条2項)になります。具体的には、防衛手段として相当とはいえない(やりすぎだった)とされる場合です。武器が対等ではない場合(例えば木刀での攻撃に対し、斧で反撃した場合)に問題になります。
この場合、傷害罪などの犯罪は成立しますが、情状により刑の減軽や免除ができます。
美位子について一審は、尊属殺人罪(旧200条)が成立するが、過剰防衛であり刑は免除としたわけです。
なお、モデルとなった実際の事件での最高裁の判断については、連載27でご紹介しました。
(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)
「63 愛をもって実務に携わる我々は強く望む」
~何歳までが少年審判? 何歳からが刑事罰?~
「63 愛をもって実務に携わる我々は強く望む」
~何歳までが少年審判? 何歳からが刑事罰?~
連載プロジェクトチームの渡邉大智です。
虎に翼第120話では、家庭裁判所設立に尽力した療養中の多岐川のもとを訪ねた寅子たち裁判官が、少年法改正に対する意見書を取りまとめる場面がありました。
少年法改正において、少年法の対象を何歳までとするかが問題になっていましたが、今回は、現行の少年法と年齢について簡単に解説します(条文は基本的に少年法のものです。)。
少年法では、少年とは、20歳未満の者をいいます(2条1項)。
しかし、年齢の異なる少年を一律に同じ扱いにすることは適切ではなく、細かく分かれています。
まず、14歳未満の少年は、その行為を罰しないとされています(刑法41条)。
しかし、非行があった場合、何の手続もないというわけではなく、触法少年として少年審判が開かれ、児童自立支援施設などの処分がありえます(少年法24条。特に必要な場合は少年院送致もあり得ます。)。
14歳以上になると、原則は少年審判を受けることになる一方、少年の行為も処罰の対象となることから、少年も、その行為の重さなどによっては検察官送致(いわゆる逆送。刑事手続を受けるように家庭裁判所から検察官に事件を送ること)され、刑事裁判で刑事罰を受ける場合があります。
16歳以上になると、殺人や傷害致死など、故意に被害者を死亡させた場合には、原則として逆送になります(20条2項)。
18歳と19歳の少年は「特定少年」(62条1項)とされ、故意に被害者を死亡させた場合だけでなく、「死刑・無期・短期一年以上の懲役・禁錮に当たる罪」(例えば強盗や不同意性交等罪、現住建造物放火など)を犯す時に特定少年であった場合には、原則として逆送になります(62条2項)。
そのほか、氏名等を推知させる報道等が一部許容されるなど(68条)、特定少年に対する特別な扱いがあります。
このように、少年とはいっても、すべてが少年審判となるわけではなく、年齢に応じて、刑事罰の対象とする可能性が広がります。その点で、ドラマのように、少年審判の対象を何歳までとするかといった明確な線が引かれているわけではないのが、現在の少年法です。
(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)