【連載】マメ知識 虎に翼のことば 5

第62話~第82話

「41 私がこのまま担当してよいのでしょうか?」~「50 右前腕部骨折などの傷害を負わせたものである」

第62話~第82話

「41 私がこのまま担当してよいのでしょうか?」~「50 右前腕部骨折などの傷害を負わせたものである」

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「41 私がこのまま担当してよいのでしょうか?」

~裁判官がお友達の事案の担当になったとき~

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「41 私がこのまま担当してよいのでしょうか?」

~裁判官がお友達の事案の担当になったとき~

連載プロジェクトチームの足立珠希です。
62話で、寅子は、学生時代の友人である梅子の夫の遺産分割調停を担当することとなり、上司の浦野に、「私がこのまま担当してよいのでしょうか?」と相談しました。
今回は、裁判官を裁判や調停から除外する仕組みについて解説します。

民事訴訟法や家事事件手続法は、公正な裁判の実現という趣旨から、裁判官が当事者や事件と関係が深い場合、そのような裁判官を職務の執行から排除する制度を設けています。それが、除斥/忌避/回避です(なお、刑事手続にも同様の制度があります。)。

「除斥」(民訴法23条など)は、法律上当然に裁判官が職務執行できない場合であり、裁判官やその配偶者が事件の当事者であるとき、裁判官が当事者の親族や姻族であるとき、裁判官が事件の証人や鑑定人であったときなどが規定されています。

「忌避」(民訴法24条など)は、裁判官について裁判の公正を妨げる事情があるときに、当事者の申立によってその裁判官を排除する制度です。
裁判官と事件や当事者の関係から一方当事者に不公平な裁判がされる恐れがある客観的事情が必要であり、裁判官の思想や法律上の意見などは忌避の原因とはなりません。

また、「回避」(民訴規則第12条など)は、裁判官自らが、除斥又は忌避の事由があると認めて、職務執行を避ける制度です。
寅子は、友人として梅子の力になりたい気持ちと裁判官として公正な判断をしなければならない立場が対立することから、自ら職務の執行からはずれるべきではないかと考え、上司に「回避」を相談しましたが、人手不足のため、そのまま事件を担当しました。
調停は意外な方向に進みましたが、話し合いで調停が成立して寅子はさぞほっとしたことでしょう。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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「42 自分の人生を生きていきましょう。ごきげんよう。」

~間違えやすい「相続放棄」と「相続分の放棄」~

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「42 自分の人生を生きていきましょう。ごきげんよう。」

~間違えやすい「相続放棄」と「相続分の放棄」~

連載プロジェクトチームの古田昌己です。

第64話では、梅子が「自分の人生を生きていきましょう。ごきげんよう。」と言い残し、遺産分割調停で相続分を放棄して、大庭家を去りました。
今回は、梅子が行った「相続分の放棄」とこれと似て非なる「相続放棄」の2つの違いについて解説します。

まず、梅子が行っていない方の「相続放棄」を行うと、初めから相続人でなかったものとみなされます(939条)。
したがって、被相続人(亡くなった人)の財産だけでなく、借金(債務)も引き継ぎません。
相続放棄は、相続開始があった(亡くなった)ことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があることに注意が必要です(915条1項)。

これに対し、梅子が行った「相続分の放棄」は、遺産分割において、遺産を取得しないこととする意思表示で、財産を引き継がないことは相続放棄と同じですが、相続人としての地位を失うわけではないので、債務は引き継ぐこととなります。
期間の制限はありません。したがって、遺産分割協議での争いに巻き込まれたくない相続人が、相続分の放棄をしてドロドロした争いから抜ける方法として利用されることもあります。

これらの制度を比較すると、特に被相続人の債務が多いと考えられる場合には、3か月の制限期間内に、相続放棄の申述を行うのが得策といえます。

梅子は、息子たちとの醜い遺産の争いに愛想をつかし、多額の相続分をすべて放棄してでも、争いから抜け出したかったのでしょう。結果的に梅子の相続分の放棄により息子たちが遺産を三等分することで合意できたのは、梅子の大胆な行動で息子たちが目を覚まし、お金よりももっと大切なことに気づいたからである、と信じたいものです。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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「43 多数の決が集まりましたので、合憲ということでよろしいですか」

~最近の違憲判決で発動された「憲法の番人」による救済~

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「43 多数の決が集まりましたので、合憲ということでよろしいですか」

~最近の違憲判決で発動された「憲法の番人」による救済~

連載プロジェクトチームの森永有紀です。
虎に翼第68話では、暴力的な父を殺害してしまった被告人の事件について、穂高先生など最高裁判事が刑法200条の尊属殺人罪の規定が合憲か、協議を行っていました。
今回は、裁判所の違憲審査権について解説します。

日本国憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と定め、法令が違憲か否か審査する権限を、裁判所に認めています。

基本的人権が立法や行政によって侵害された場合に、裁判所が「憲法の番人」として救済を行う仕組みです。日本国憲法により最高裁の権限は大幅に強化されました。

裁判所は、法律ができるたびに審査を行うわけではなく、具体的な事件の裁判を行う際に、その事件の解決に必要な限度で、問題となる法令やその適用について、合憲か違憲の審査を行います(付随的違憲審査制)。
今月のことですが、旧優生保護法に基づいて不妊手術を受けさせられた方が、国に対して賠償を求める裁判で、最高裁は同法の規定が憲法13条及び14条に違反すると判断しました(最大判令和6年7月3日)。

国に賠償を求める訴訟(国家賠償請求訴訟)では、旧優生保護法を立法した国会議員の行為の違法性が問題となります。憲法に違反する法律を作ったのであれば、国会議員の行為が違法と評価されるため、違憲審査が行われたのです。

このように、まずは当事者が声を上げ、訴えを起こさないと「憲法の番人」としての力は発揮されません。訴訟を起こす立場の弁護士も重要な職責を担っていることを改めて考えさせられます。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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「44 事情をくんで執行猶予が付けられた」

~尊属殺合憲・違憲判決で問題となった執行猶予とは?~

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「44 事情をくんで執行猶予が付けられた」

~尊属殺合憲・違憲判決で問題となった執行猶予とは?~

連載プロジェクトチームの森祥平です。
第68話では、最高裁判事・穂高教授が関わった尊属殺規定の最高裁判決がありました(同規定についての実際の違憲判決については、連載45で採り上げました。)。
尊属殺規定が合憲か違憲かが問題となったのは、普通殺人ならば法律上、執行猶予を付ける余地があった一方、尊属殺にはその余地がなかったためでした。
今回は、刑の執行猶予(刑法25条以下)を解説します。

例えば、「懲役2年・執行猶予3年」という判決の場合、本来は2年間、服役をする必要がありますが、判決が確定した日から3年間、新たな罪を犯して懲役刑や禁固刑に処せられるなど執行猶予を取り消されることなく、執行猶予期間が経過した場合、2年間の服役の必要がなくなる(刑の言渡しが効力を失う)というものです。

執行猶予期間中に罪を犯して実刑判決を受けると、猶予分も併せて服役することになります。例えば、「懲役2年・執行猶予3年」の判決で、3年の間にさらに罪を犯し、懲役2年6月の判決を受けた場合、合計4年6月の服役をする必要があります。

新たな罪が1年以下の懲役又は禁錮に処せられ、情状に特に酌量すべきものがある場合には、さらに執行猶予にできるときもあります(再度の執行猶予。25条2項)。
万引きの事案などでは、再度の執行猶予が適切か否かで検察官と弁護人が鋭く対立する場合があります。

執行猶予判決後、何も問題なく過ごせば服役しなくて済む一方、改めて罪を犯せばかなり長い期間服役する必要があります。窃盗など故意の犯罪は論外としても、車の運転で人を死傷させる過失運転致死傷や、あわてて現場から逃げてしまうひき逃げ(道路交通法による救護義務違反や報告義務違反)は、特に執行猶予期間中は要注意です。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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「45 一度の浮気くらい許してくれたっていいじゃない」

~浮気をした福田瞳から離婚請求ができるか?~

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「45 一度の浮気くらい許してくれたっていいじゃない」

~浮気をした福田瞳から離婚請求ができるか?~

連載プロジェクトチームの西墻省吾です。
第72話では、寅子が家裁の裁判官として、妻である瞳の浮気が問題になった福田夫妻の離婚調停に立ち会う場面がありました。
今回は、浮気(不貞行為)の離婚への影響について解説します。

民法上、夫婦の一方は、配偶者に不貞な行為があったとき、離婚の訴えを提起することができるとされています(770条1項1号)。「不貞な行為」とは、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」(最判昭和48年11月15日)をいいます。
不貞を行った場合、瞳のように、調停や訴訟で配偶者から離婚を求められるおそれがあります。

では、浮気をした夫あるいは妻(有責配偶者)から、逆に離婚を求めることができるのでしょうか。
不貞を行った夫が妻に離婚を求めた訴訟において、最高裁は「もしかかる請求が是認されるならば、妻は全く俗にいう踏んだり蹴ったりである。法はかくの如き不徳義勝手気ままを許すものではない」として、夫の離婚請求を認めませんでした(最判昭和27年2月19日。いわゆる「踏んだり蹴ったり判決」)。

とはいえ、長期間の別居などにより婚姻の実態が完全になくなっている場合まで、例外なく有責配偶者からの離婚請求ができないとすれば、厳しすぎると言わざるを得ません。
「踏んだり蹴ったり判決」の35年後、最高裁は、別居期間の長さ、未成熟子(幼い子)の有無、離婚によって相手方が苛酷な状態に置かれないことなどの事情を考慮し、例外的に有責配偶者から離婚請求ができる場合があるとしました(最判昭和62年9月2日)。

ところで「踏んだり蹴ったり判決」には、「戦後に多く見られる男女関係の余りの無軌道は患うべきものがある」との一文があります。
寅子だけでなく当時の裁判官も、不貞行為の多さに苦労していたのでしょう。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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「46 別々に、お話しをお聞きしましょうか。」

~暴力事件を防ぐ調停手続の進め方の工夫~

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「46 別々に、お話しをお聞きしましょうか。」

~暴力事件を防ぐ調停手続の進め方の工夫~

連載プロジェクトチームの磯部紗希です。
虎に翼第72話では、寅子が、離婚をめぐって意見が対立する夫婦の調停を担当する際、感情的になる当事者を前に、「別々に、お話しをお聞きしましょうか」と、個別に話をするよう調停委員にうながしました。
今回は、ドラマで描かれた調停と、現在行われている家事調停との違いについて解説します。
 
調停とは、裁判のように白黒決着をつけるのではなく、話し合いによる合意によって紛争の解決を図る手続です。
現在の調停は、調停委員会は裁判官1名と調停委員2名で構成され、調停の期日当日は調停委員2名が当事者双方の話を個別かつ交互に聞く形で進められます。

したがって、調停の相手方当事者と直接顔を合わせて話合いを行うことはほとんどありません。また、開始時刻をずらす等して、入退室の際も相手方当事者と顔を合わせることがないよう配慮されています。

また、当事者間において、ドメスティック・バイオレンスなどにより、暴力事件の発生が起きるおそれがある場合など、当事者が、裁判所に集まること自体に危険がある場合には、裁判所との事前協議を行ったうえで、当事者が待機する階をわけたり、それぞれを別の日に呼び出すなどの運用がなされています。

実際、ドラマの中でも、離婚調停の当事者である福田瞳が家庭裁判所の中にかみそりを持ち込み、担当裁判官である寅子を襲う場面がありました。
離婚など家庭をめぐる問題は、何かと感情が高ぶりがちです。実際の調停では、関係者に危険が及ばないよう配慮されていますので、不安がある方は依頼する弁護士や裁判所によく相談されると良いと思います。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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「47 田舎じゃ持ちつ持たれつだから」

~地方だからこそ問題になる弁護士のルール~

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「47 田舎じゃ持ちつ持たれつだから」

~地方だからこそ問題になる弁護士のルール~

連載プロジェクトチームの川端彩華です。
虎に翼第76話では、寅子が赴任した新潟地裁三條支部の地域では弁護士が2人しかおらず、同じ日の裁判の原告・被告の弁護士が同じ顔触れという場面がありました。

また第77話では、杉田太郎弁護士が、寅子の家に食事を手配するなどした上で「田舎じゃ持ちつ持たれつだから」などと圧力をかける場面がありました。
今回は、弁護士が少ない地域で問題となる弁護士のルールについて解説します。

弁護士法は、「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」(利益相反事件)について職務を行ってはならないとしています(25条1号)。
例えば離婚事件で、夫から相談を受けて助言した後に、逆に妻から依頼されたとしても、引き受けることはできません。
弁護士が少ない地域では、当事者双方から相談されることも珍しくないことから、相談を受ける前に、その相手など関係者の名前を確認するのが通常です。

また、弁護士は、職務を行うに当たり、裁判官など手続に関わる公職にある者との「縁故その他の私的関係があることを不当に利用してはならない」とされています(弁護士職務基本規程77条)。

ドラマでは、弁護士が何かにつけて寅子に恩を売り、「持ちつ持たれつ」などと事件で有利に計らうよう求めていますが、贈賄(刑法198条)などの犯罪に当たらない場合でも、弁護士としてのルールに反します。
弁護士が少ない地域では、裁判官との距離も近くなりがちですが、適切な線引きをしなければならないことは当然です。

鳥取県内はドラマでの三條よりは弁護士が多いものの、都会に比べると利益相反などの問題が発生しがちです。私たちは地域の司法への信頼を損なわないよう、十分に注意して日常の仕事に臨んでいます。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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「48 夜分に申し訳ありません。令状をいただきたく…」

~夜間に裁判官が審査する逮捕手続とは?~

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「48 夜分に申し訳ありません。令状をいただきたく…」

~夜間に裁判官が審査する逮捕手続とは?~

連載プロジェクトチームの古田昌己です。
第76話では、夜間に高瀬書記官が寅子の自宅を訪ねてきて、逮捕状の発付を求める場面がありました。今回は、3つの逮捕手続について解説します。

逮捕は、「短時間の身体拘束状態を続ける強制処分」で、通常逮捕(刑事訴訟法199条以下)、緊急逮捕(210条以下)、現行犯逮捕(213条以下)の3種類があります。

通常逮捕は、裁判官があらかじめ発する「逮捕状」によりなされる逮捕です。逮捕状は発付する段階で、裁判官が審査することにより、身体拘束が正当であることを確保するとともに、捜査機関による不要な身体拘束を抑制することが期待されます。ですので、原則として裁判官が「あらかじめ」審査することが重要です。

他方、現行犯逮捕は、現行犯人に対する身柄拘束で、誰でも逮捕状なくしてできます。例外的に逮捕状が必要とされないのは、犯罪を直接認識した人にとっては、犯人であることが明白で、緊急に犯人の身体を拘束する必要があるからです。

緊急逮捕は、一定の犯罪の嫌疑が十分にある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない場合にされる逮捕です。現行犯ではないことから逮捕状が必要ですが、緊急であることから、あらかじめではなく事後的に、逮捕後に直ちに逮捕状を得ることが必要とされています。

ドラマのケースは、寅子が「酔っ払い同士のケンカですね」と言っていたことから、夜間に発生した傷害事件について、現行犯ではないものの、逮捕後直ちに逮捕状を得ることが必要である緊急逮捕の事案ではないかと考えられます。

公私に多忙を極める裁判官の現状が垣間見られる場面ですが、刑事弁護をする弁護士としては、裁判官が当然のように令状を発付しているかのようにもみえる場面であり、審査が十分と言えるか、疑問を感じなくもありません。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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「49 山林の境界線」

~2つの境界 地図で見える筆界と見えない所有権界~

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「49 山林の境界線」

~2つの境界 地図で見える筆界と見えない所有権界~

連載プロジェクトチームの足立珠希です。
77話で、山林の境界線を巡る民事調停を担当することとなった寅子は、現地調停で山に行き、川に落ちてしまいました。
今回は、土地の境界線について解説します。

「境界」には、「筆界」と「所有権界」の2つの意味があります。
「筆界」は公法上の境界、「所有権界」は私法上の境界といわれています。

1 筆界

「筆界」とは、登記された土地の範囲を区画する線のことです。
具体的には、Aが1番地を、Bが隣の2番地を所有しているとき、登記された1番地と2番地の土地を区切る「線」を筆界といいます。

境界紛争は、現地における筆界の位置がわからないために発生するケースが多く、そのような紛争は筆界の位置を明らかにすることで解決を図ります。

登記所の新しい地図は座標が記されているので測量すれば筆界がわかります。座標がない場合、公図や古地図、地籍図、現地調査などを手がかりにして、登記官が行う「筆界特定制度」で筆界を特定したり、「境界確定の訴え」という裁判で筆界を決めたりします。

2 所有権界

「所有権界」とは、土地の所有権の範囲を画する線のことです。
筆界と所有権界は一致することが多いですが、例えば、A所有の1番地とB所有の2番地があるとき、Aが筆界を超えて2番地の一部を譲り受けたり時効取得したりすると、筆界と所有権界の不一致が生じます。

所有権は私権ですから、所有権の範囲に争いがあるときは、当事者間の協議や裁判所の調停を利用して、AとBの合意で所有権界を決めることができます。

合意できない場合は、「所有権確認訴訟」や越境部分の「建物収去土地明渡請求訴訟」などの裁判で、土地の譲渡の有無や時効取得の成否などの争点を検討して、所有権について裁判所が判断します。

境界紛争では、①塀の位置が「筆界」である、②仮にそこが「筆界」でなくても塀の位置まで「所有権」を時効取得している、というように、「筆界」と「所有権界」が二段構えで問題になることもありますが、混同しないように注意が必要です。

ドラマでは、明治初期の地境協定文書をもとに調停で合意し、「所有権界」の問題を解決しました。

境界紛争は近隣との紛争だったり測量に費用がかかったりする難しい問題ですが、「筆界」と「所有権界」のどちらの問題か整理してみると、解決への道筋が見えてくるかもしれません。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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「50 右前腕部骨折などの傷害を負わせたものである」

~けがをさせるだけではない、さまざまな傷害罪~

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「50 右前腕部骨折などの傷害を負わせたものである」

~けがをさせるだけではない、さまざまな傷害罪~

連載プロジェクトチームの森祥平です。
虎に翼第82話で、新潟地裁本庁刑事部での傷害罪をめぐる裁判が始まりました。
今回は、傷害罪として処罰されるさまざまな行為を紹介します。

傷害とは、「人の生理的機能に障害を加えること」と理解されています。
ドラマのように、殴ったりけったりして骨折させることは傷害の典型例です。殴ったりけったりしたが、けがをさせることがなかった場合は、暴行罪にあたります。
キスマークを付ける行為も、キスという暴行(不法の有形力の行使)によって内出血させるものなので傷害罪が成立します。

このように、傷害は、暴行によることが一般的ですが、暴行以外の方法で傷害が問われることがあります。
例えば、嫌がらせ電話で心身を疲労させる行為は、暴行によらない傷害といえるでしょう。そのほか、最高裁判所では「自宅から隣家に居住する被害者に向けてラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を鳴らし続けて、被害者に精神的ストレスを生じさせ、慢性頭痛症、睡眠障害などを負わせた行為」も、傷害罪が成立するとされました(最判平成17年3月29日)。
 
それでは、長い髪が自慢の人に対して、無理やり髪を切って丸坊主にする行為はどうでしょうか。
散髪で髪を切っても、痛みも出血もなく、普通に生活できることは、日常生活で経験するところで、「人の生理的機能に障害を加えること」には当たらなさそうです。
しかし、髪を切る行為も傷害罪が成立するというのが裁判例であり、刑法学上もあまり争いがないのが実情です。傷害には、「本人の意思に反して身体の外形に変更を加えること」も含むと考えられています。
したがって、校則や部活動で、むりやりはさみで髪を切ったり、バリカンで剃る行為は、傷害罪に問われかねません。

(各会員の意見にわたるものについては、鳥取県弁護士会を代表するものではありません。)

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