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【会長声明】国際刑事裁判所の独立性及び公正性を維持し、法の支配の貫徹を求める会長声明

1 国際刑事裁判所(以下「ICC」といいます。)は、国際社会の関心事である最も重大な犯罪(集団殺害犯罪(ジェノサイド)、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪)を対象とする普遍的な国際刑事法廷です。1998(平成10)年7月に国際連合全権大使会議において採択された国際刑事裁判所に関するローマ規程(以下「ローマ規程」といいます。)に基づき設立され、現在の加盟国は125の国・地域に及びます。
2 ICCは、国際社会全体の価値に反する犯罪について個人の責任を問うという流れの中で、重大な罪を犯した者に対する「不処罰」を許さず、おぞましい残虐行為をなくそうという国際社会の努力が実を結んだものとして、高く評価されています。被害者の苦しみに光を当て、法の支配すなわち法に則った司法手続を行うことにより、人類全体の平和と安全、そして人間の尊厳を維持する使命と役割を担ってきました。
3 しかし、近年、ICCの独立性が深刻な危機に直面する事態が起きています。
 2023(令和5)年3月には、ウクライナに対する軍事侵攻に関連しICCがロシア連邦の大統領らに逮捕状を発付したことに対し、ロシア連邦はICCの検察官及びICC予備審判部の複数の裁判官に対して逮捕状を発付しました。また、2024(令和6)年11月にパレスチナ自治区ガザ地区における人道に対する罪と戦争犯罪の容疑でICCがイスラエル国のベンヤミン・ネタニヤフ首相らに対して逮捕状を発行したことに対し、2025(令和7)年2月、アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領が、ICC関係者の資産凍結、アメリカ合衆国への入国禁止等を内容とする大統領令に署名しました。
 これら報復的な措置は、ICCの独立性に対する不当な干渉であり、その存続を脅かす重大な行為であり、最も深刻な国際犯罪の処罰や被害者の保護を困難にし、国際社会の平和と安全の維持を著しく後退させるおそれがあります。
4 日本は、ICCへの加盟以来、一貫してその活動を支持し、2024(令和6)年現在、最大の分担金拠出国であるとともに、これまで継続して裁判官を輩出し、現在のICC所長は日本出身の赤根智子氏(以下「赤根所長」といいます。)です。
 赤根所長は、上記大統領令に関し、アメリカ合衆国の措置を強く非難しており、また、ICCに加盟する79の国・地域も、「深刻な犯罪が免責となる危険性を高めるものだ」と上記大統領令を批判する共同声明を発表しました。
 しかし、日本は、この共同声明に加わっていません。人間の尊厳を維持する使命と役割を担ってきたICCの活動への干渉に対して、批判の意を表明していないのです。
5 日本国憲法は、その前文において国際協調主義を宣明し、98条2項において我が国が締結した条約の誠実な遵守を義務づけています。また、司法機関の独立性と公平性の維持は、国際社会における法の支配の貫徹のために不可欠です。ICCの裁判官がその独立性及び公正性を維持し(ローマ規程40条)、いかなる不当な干渉も受けることなく職責を果たすことができるよう国際社会に対して積極的に働きかけることは、日本国憲法が掲げる国際協調主義ひいては個人の尊厳の理念に適うものです。
6 当会は、国際社会における法の支配を支えるICCが深刻な危機に直面している現状を踏まえ、ICCの存在意義の重要性を改めて訴えるとともに、日本政府に対して、ICCの独立性及び公正性を維持し、国際社会における法の支配を貫徹するため、引き続きICCへの貢献を続け、かつ、その活動に対する報復的な措置を撤回するよう働きかけることを求めます。

以 上

2025(令和7)年7月2日
鳥取県弁護士会
会長 川井 克一

 

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