2024年10月5日施行の鳥取県の地域別最低賃金は、前年から57円引き上げられ、時給957円と決定されました。
しかし、日本労働組合総連合会(連合)の調査では、労働者1人の「健康で文化的な生活ができ、労働力を再生産し社会的体裁を保持するために最低限必要な賃金水準」(リビングウェイジ:LW)について、鳥取県においても、労働者1人あたり月23万8000円とされ(2024LW 自動車保有の場合)、フルタイムの労働者(一般労働者)の所定内労働時間一般労働者の所定内労働時間である152.6時間(「毎月勤労統計調査 令和6年10月分結果確報」厚生労働省)により換算すると、時給1500円以上となるところ、957円はこれに遠く及ばない額であり、県民の誰もが衣食住に不自由しない幸福な生活を送るためには、最低賃金の大幅な引き上げが必要です。
また、2024年の地域別最低賃金は、最も高い東京都の時給1163円に対し、秋田県の951円が最も低く、212円もの開きがありました。
各種調査から示された、労働者1人が「ふつうの暮らし」をするのに必要な賃金水準は、大都市よりも地方が低くてよいというものではなく、地方における自動車の保有を前提とした場合、むしろ大都市において自動車を保有しない場合よりも高額となることもあります。また、中央最低賃金審議会においては、地域間格差を是正する名目で、各地域を3ランク分類することを前提とした目安制度をとっていますが、下位ランクの多くの地方最低賃金審議会の目安額に対する反発が続いていることからも、その有意性には疑問があります。
すなわち、都道府県単位の地域別最低賃金は、国民1人1人の生存に関わる最低賃金の水準としての合理性には疑問があると言わざるを得ません。
以上を考慮すれば、現在の制度を抜本的に改め、全国一律最低賃金制度の実現に向けて動き出すことが必要です。
他方で、最低賃金の引上げによって、特に中小企業の経営には大きな影響が生じます。政府は2024年11月22日に「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を閣議決定し、「2020年代に全国平均1500円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続する」としていますが、これを実現するためには、毎年89円の最低賃金の引上げが必要で、この目標達成のためにも、長期的継続的な中小企業支援策が強く求められます。
現在、国は、「業務改善助成金」制度による支援を実施していますが、助成対象が生産性向上に資する設備投資等の費用に限定されていることや、助成対象経費支払後に補助金が交付されることなどへの批判が多く寄せられており、中小企業への支援策として十分とは言い難いところです。
社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することや、人件費及び原材料費等の上昇を取引価格に適正に反映させることを可能にする法制度の整備や行政の充実など、効果的な支援を行うことが必要です。
以上より、当会は、鳥取地方最低賃金審議会に対し、鳥取県の地域別最低賃金の大幅な引上げの答申を出すことを求めるとともに、国に対し、全国一律最低賃金制度の導入を検討すること、並びに、最低賃金の引上げに伴う中小企業への十分な支援策を講じることを求めます。
以 上
2025年(令和7年)7月1日
鳥取県弁護士会
会長 川井 克一