2023年10月5日施行の鳥取県の地域別最低賃金は、前年から46円引き上げられ、時給900円と決定されました。しかし、時給900円という水準では、祝日・正月に休まず1日8時間、週40時間働いたとしても、月収約15万6000円、年収約187万円程度にしかなりません。この賃金額では、依然として労働者やその家族が十分に生活できるだけの水準とは言えません。
2023年の最低賃金は、最も高い東京都が時給1113円に対し、岩手県の893円が最も低く、220円もの開きがありました。しかし、全国労働組合総連合(全労連)の調査によれば、労働者1人が質素であるが贅沢ではない「ふつうの暮らし」をするのに必要な賃金水準は、大都市も地方も月22~24万円程度であり、大きな差はありません。また、日本労働組合総連合会(連合)の調査でも、労働者1人の「健康で文化的な生活ができ、労働力を再生産し社会的体裁を保持するために最低限必要な賃金水準」は、地方でも自動車保有を前提とすれば概ね月22万円以上となっており、自動車保有をしない前提での大都市部の金額よりも高額となっています。
都道府県単位の最低賃金は、東京都で23区と島嶼部が同一の最低賃金が適用されるなど単位として大雑把に過ぎる場合も、同一都市圏でも県境により最低賃金が異なるなど逆に無用な区域分けとなっている場合もあり、いずれにせよ、国民1人1人の生存に関わる最低賃金の水準を決定する単位としての合理性は乏しいと言えます。以上を考慮すれば、最低賃金の全国一律化は必須です。
日本の実質賃金は、1990年以降、ほとんど上昇していません。近時は物価上昇によって1990年以降で最低水準となっています。就職氷河期以降、低賃金の非正規労働者が増大し、正規労働者の労働条件も劣化するなど、憲法27条1項の勤労権(労働によって生計を立てる権利)や賃金等の労働条件の公正性がおざなりとなってきました。このことが、若い世代が低所得に追いやられ、結婚・子育てを希望してもできずに少子化が著しく進行し、人口減少が加速するなど、「失われた30年」の大きな要因となっています。
労働者が生計を立てられ、希望すれば結婚や子育ても可能となる水準でこそ、公正な賃金の水準です。経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第7条も、「公正な賃金」や「労働者及びその家族のこの規約に適合する相応な生活」を与える報酬を労働者の権利として保障しています。
そして、地方でも労働者1人に必要な賃金水準は、月22万円以上であることから、これを政府が労働時間短縮の目標としてきた年間1800時間労働(月150時間労働)により換算すると時給1500円前後となります。つまり、労働者が働いて生計を立てることに希望を持ち、持続可能な日本社会とするための最低賃金の水準は、少なくとも1500円と算定されます。そのことにようやく政府も気付いたからこそ、岸田首相が「最低賃金を2030年代半ばまでに全国加重平均で1500円に引き上げる」との目標を示すようになったと評価できます。
一方、最低賃金の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対して、政府は、社会保険料の減免や減税、補助金支給等の支援策など、長期的継続的な支援策を強化すべきです。
上記を踏まえ、当会は、鳥取地方最低賃金審議会に対し、鳥取県の地域別最低賃金の大幅な引上げの答申を出すことを求めます。また、厚生労働省に対して、全国一律最低賃金制度の導入を検討するように求めます。
以上
2024年(令和6年)7月2日
鳥取県弁護士会
会長 尾西 正人