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【総会決議】刑事訴訟法中、再審に関する規定の改正を求める総会決議

刑事訴訟法中、再審に関する規定の改正を求める総会決議

2023年(令和5年)5月30日
鳥取県弁護士会

 当会は、再審請求事件の長期化を抑制し、冤罪被害者を合理的に救済するために、政府及び国会に対して、少なくとも以下の内容を含む刑事訴訟法「第四編 再審」の改正を強く求める。
1 再審請求事件における証拠開示制度の法制化
2 再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止

理由
1 再審請求事件における証拠開示制度の法制化の必要性
  捜査機関は国家権力を行使して広範な証拠を収集し、刑事裁判ではその中から有罪の根拠となる証拠を検察官が選別して提出する。しかし、公正な裁判のためには、捜査機関が収集した証拠の中に有罪への疑問を抱かせるものなど被告人に有利なものがないか、弁護側に適切に証拠開示がなされる必要がある。
  通常の刑事裁判においては、2004年改正刑事訴訟法により、公判前整理手続における一定の証拠開示の制度が新設され、大きく前進した。
  しかしながら、再審請求事件における証拠開示については、2016年刑事訴訟法改正時の附則9条3項が「検討を行う」と規定したにもかかわらず、法制化の目処が立っておらず、依然として裁判所の裁量的な訴訟指揮に委ねられている。そのため、裁判所の積極的な訴訟指揮によって重要かつ大量の証拠開示が実現した事件がある一方、訴訟指揮権の行使に極めて消極的な場合も存在し、大きな格差が生じている。そして、証拠開示を巡る主張の対立は、再審請求事件の異常な長期化の一因となっている。
  裁判所の訴訟指揮により証拠が開示された再審請求事件においては、布川事件、東京電力女性社員殺害事件、東住吉事件、袴田事件、大崎事件、日野町事件等のように、開示証拠が再審開始決定の結論に強い影響を与えた事件が多く存在する。また、松橋事件では、再審請求前の段階で開示された証拠が再審開始決定の決め手となった。湖東事件では、再審公判の段階で無罪方向の証拠が新たに開示された。
  よって、冤罪被害者の救済可能性を高め、かつ、再審請求事件の長期化を抑制することにより、刑事裁判の公正性・信頼性を保つために、再審請求手続において、全面的な証拠開示を望むべきところであるが、少なくとも通常の刑事裁判と同様の水準の証拠開示制度の法制化が喫緊に必要である。

2 再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止の必要性
  再審開始決定に対して検察官は積極的に不服申立を行っており、再審請求事件は長期化している。例えば、袴田事件では、2014年3月に静岡地裁が再審開始決定をしたが、抗告審において2018年6月に東京高裁が原決定を取り消して再審請求棄却決定をした。2020年12月に最高裁が東京高裁決定を破棄して差し戻し、今年3月に東京高裁が検察官の即時抗告を棄却する決定をし、これが確定した。再審開始決定から確定までに実に9年間を要したが、検察側は今後の再審公判において改めて有罪立証をしていくことが可能であり、現にそれを検討中である。
  再審請求事件においては、「確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性をもつ新たな証拠」があると裁判所が判断した場合に再審開始決定がなされるが、これは裁判のやり直しを決定するにとどまり、有罪・無罪の判断はあらためて再審公判において行われる。再審公判では、再審請求事件の無罪の心証は法的に当然には引き継がれず、再審開始決定の理由となった「新たな証拠」について弁護側が証拠請求の上で証拠採用・証拠調べがなされ、裁判所の心証が形成される。その際に、再審開始決定は事実上の拘束力を持つにとどまる。
  つまり、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止しても、検察官には再審公判の場で有罪立証をする機会が残されているのであり、検察官にとって不都合はない。むしろ、再審開始決定といういわば中間的な判断に対して検察官の不服申立を認める現行法が、再審事件全体の長期化を招いており、冤罪被害者の救済のために不当な負担をもたらしている。
  日本の刑事訴訟法の母法とされるドイツの刑事訴訟法は、1964年に、再審開始決定に対する検察官抗告を不可とする法改正をしている。また、フランス・イギリスでも再審開始決定に対する検察官抗告はできない。日本で同様の法改正をしても、法制度上の問題は生じない。
  以上により、再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止する法改正をすみやかにすべきである。

以上

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