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【会長声明】出入国管理及び難民認定法改正案(政府提出)に反対する会長声明

 政府は、本年2月19日、出入国管理及び難民認定法改正案を国会に提出した。
 しかし、本法案については、廃案または根本的な再検討が行われるべきである。

 本法案は、そもそも2019年6月に大村入国管理センターで発生した長期被収容者の餓死事件に端を発して、このような事件の再発防止と入管の長期収容問題解決を念頭にした議論を経て、政府から出された改革案のはずであった。しかしながら、下記のとおり、本法案の内容は、長期収容問題の解決に資するどころか、収容の長期化を助長し、難民申請者の保護を後退させるなど、重大な問題を含む制度となっている。

 1 入管法収容の長期化を防止するためには、収容の要件及び収容期間の上限を定めた上で、裁判所によって収容の可否及び期間を審査する制度を創設するべきであるが、本法案には、この点についての改正は含まれていない。そして、仮放免許可の対象を従来よりも大幅に縮小した上で、「収容に代わる監理措置(以下「監理措置」)」を導入するとしている。
監理措置には監理人の存在が必須とされており、監理人は対象者の生活状況、許可条件の遵守状況を監督し、その状況を国に届け出る義務を負い、これに反すれば過料の制裁を科せられうる。現行の仮放免制度において身元保証人の役割を負ってきたのは親族、支援者、弁護士等であるが、監理人に課される義務は、支援する者という立場と相容れず、また、弁護士の場合には守秘義務や利益相反が問題となるおそれがある。監理人となる者の確保は困難であり、現行法の下では仮放免の対象となっている者の多くが監理措置を受けることができず、長期収容の問題はますます悪化することになるので、反対である。
また、収容令書発付段階での監理措置において一定の条件下での就労が認められることとされたのに対し、退去強制令書発付後の監理措置では就労が認められない。退去強制令書発付後であっても、難民不認定処分や退去強制令書発付処分の取消訴訟が相当期間行われ得るのであり、監理措置の条件違反が、監理措置の取消と再収容、刑事罰につながることからすると、退去強制令書発付後、いっさい就労を認めないことには問題がある。

 2 本法案は、3回以上の難民認定申請者等について、原則として送還を停止する効力を解除することとしている。しかし、難民認定手続の適正化に向けた法整備や具体的措置を先行させるべきであり、ノン・ルフールマン原則(迫害を受けるおそれのある国への追放・送還を禁じる国際法上の原則)に反するおそれがあることから、反対である。

 3 本法案では、在留特別許可を申請手続とするにあたって、1年を超える実刑の刑事処分を受けた者等には原則として在留特別許可を認めないこととする一方、家族の統合や子どもの最善の利益等については抽象的な記載にとどまっている。しかし、在留特別許可の許否の判断は、家族の統合や子どもの最善の利益等の積極要素と、刑事前科等の消極要素の双方の比較衡量によるべきであり、刑罰前科の存在は、その内容により消極的な考慮事情要素の一つと位置付けることがやむを得ないとしても、原則的な不許可事由とすべきではない。また、手続に当たっては、申請者が意見を述べる機会、代理人を選任する権利などを明記するとともに、退去強制令書発付後の申請も認めるべきである。

 4 本法案は、退去強制令書の発付を受けた者に対する退去命令を発して、これに従わないときは刑事罰を課する制度を創設したが、刑罰をもってして強制することを必要とする立法事実はなく、要件の明確性も欠くから削除されるべきである。

 5 本法案は、処遇に対する規定を入管法の条文の中で規定することとしているが、現行の被収容者処遇規則において、訴訟代理人等の弁護士や領事官の面会については制限がないとされているところ、一般面会と同様に一定の場合は制限しうるものとするなど、重要な内容を十分な議論なしに変更しようとしている点も問題である。

 6 本法案は、難民条約に規定する難民に該当しないものの、条約上あるいは人道上の観点から国際的にも保護されるべき者について、「補完的保護対象者」として保護する制度を設けた。しかし、難民条約の規定ぶりにとらわれるあまり、補完的保護対象者を難民条約上の難民に準じる者に限定しており狭きに失している。

 折しも3月6日、名古屋出入国在留管理局において、被収容者の30代のスリランカ人女性が死亡した。当該女性は生前、体調不良を訴え、仮放免許可を求めていたと報道されている。上記に指摘した問題のある法改正では、長期収容問題を助長することはあっても、解決につながらないことは明らかである。名古屋の事案について公正な第三者による調査を行うとともに、真の長期収容問題の解決に向けて、本法案の廃案または根本的な再検討が行われるべきである。

以 上

2021(令和3)年4月26日
鳥取県弁護士会
会長 佐 野 泰 弘

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