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【会長声明】民法の成年年齢の引下げに関する会長声明

 成年年齢を20歳から18歳に引き下げる改正民法が2018年6月13日に成立しました。改正法は2022年4月に施行されます。施行後、未成年者は20歳未満ではなく、18歳未満となります。
 選挙年齢が18歳以上の国民にまで引き下げられたことに伴う改正のようですが、民法の成年年齢を引き下げることの意味を理解するには、まず、民法がどのような基本原理を持つ法律かを知っていなくてはなりません。民法が成年年齢を定める意味を知らずにその引き下げの意味を論じても、議論の焦点がぼやけてしまうからです。
 民法には、契約や財産権に関する規定と、夫婦・親子や相続に関する規定とがありますが、このうち契約や財産権に関する規定を支配している基本原理は「私的自治の原則」です。これは、簡単に言えば、「取引するかどうか、誰とどのような取引をするかは自由だけれども、自分で決めた取引には責任を持たなければならない。」という原則です。不知であろうが、無知であろうが、また、たとえどれほどの損失を被ろうとも、自分の自由な意思で決めたことには責任を持たなければならないという厳しい自由取引競争のルールが民法の基本原理とされています。
 この基本原理には民法が制定された当時の歴史的な背景があるのですが、それはさておき、少なくとも民法は、自らの合理的な判断で自らの財産に関する意思を表示できる人を念頭に置いて、自由取引の主体と定めているのです。
 他方、民法は、経済社会における合理的な判断力を未だ十分に備えていないとみられる若年者が過って自由取引競争の犠牲になることがないように、成年年齢を定め、これに達しない未成年者については親権者などの同意を得ずに単独で行った取引を取り消す権利を与えています。これを未成年者取消権と言いますが、こうした取消権を与えることで知識経験ともに未熟な若年者を保護しているのです。
 このたびの民法改正によって、18歳と19歳の若年者はこの未成年者取消権を失うことになります。つまり、若年者に対する保護が弱められ、未成年者が自由取引競争の犠牲になる機会が増えることになります。確かに、能力に秀でた若年者の社会参加の時期を早める意義はありますし、若年者を相手とする取引の拡大が狙えますが、その分、若年者を厳しい自由取引競争にさらす時期を全体的に早める結果となるのです。
 今日のきわめて複雑化した経済社会において、厳しい自由取引競争に耐えうる十分な社会教育や消費者教育が若年者に施されているかどうかが問われるわけですが、残念ながら、現状では十分な教育が施されているとは思えません。18歳と19歳の若年者が未成年者取消権を失うことによって、若年者の消費者被害が拡大し、若年者の社会経済的損失が増えることを危惧します。今般、通常国会に提出されている消費者契約法の改正案では、消費者の不安や勧誘者への恋愛感情等につけ込んだ勧誘を理由とした取消権の導入が提案されていますが、未成年者取消権の喪失に対応する施策としてはまったく不十分です。
 成年年齢の引き下げにはこれ以外にも問題があります。
 成年年齢の引き下げは、親権が及ぶ子の年齢を引き下げることになります。親権は子の利益のために行使されるものであり、子を監護教育するためのものですが、親権の対象年齢が引き下げられることによって、経済的にも社会的にも自立困難な若年者が増え、若年者の経済的困窮が拡大する恐れがあります。さらに、将来的には国民年金保険料の負担や税の負担が18歳、19歳の若年者にまで拡大される恐れがあります。成年年齢の引き下げによって若年者の貧困と格差が助長される結果となることを深く危惧します。
 成年年齢の引き下げは、少子高齢化が進む日本社会において若年者の社会参加の時期を早めるものとされており、もちろん悪いことばかりではありません。しかし、良いことばかりでもありません。問題は、良いことと悪いこととの釣り合いがとれているかどうかであり、悪いことへの手当が十分になされているかどうかです。そして、最も重要なことは、国会審議において十分な議論がなされているかどうかであり、国民に十分な情報が与えられ、国民の多くの支持やコンセンサスが得られているかどうかです。
 民法の成年年齢の引き下げに対する十分な条件整備が施されないまま、また国民に十分な情報が与えられず、十分な議論がなされたとはいえない状況において、今般の法改正が拙速に行われたことについては遺憾の意を表します。その上で、成年年齢の引き下げによる弊害を現実化させないよう、実効性のある施策を国に求める次第です。

以上
2018(平成30)年6月28日
鳥取県弁護士会  
会長 駒 井 重 忠

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