1 過去3度廃案になった共謀罪法案が、今秋の臨時国会に提出される方針との報道がされるなど、近時再提出に向けた情勢が見られる。
当会は、2005年10月31日、共謀罪は、刑法の人権保障機能に反することを指摘し、これに反対する会長声明を表明したが、この近時の情勢に鑑み、改めて共謀罪の新設に反対する。
2 過去に廃案となった共謀罪は、団体の活動として当該行為を実行するための組織により行われる犯罪の遂行を共謀した場合、すなわち団体の活動として2人以上の者が犯罪を行うことを合意した場合に、2年以下ないし5年以下の懲役・禁錮を科すというものであった。すなわち、共謀罪は、これまでの刑法が各犯罪について定めている実行行為も予備行為も不要とされ、合意のみで犯罪が成立するというものである。
しかも、共謀罪の対象は長期4年以上の刑を定める罪とされ、その対象とする犯罪は窃盗や傷害を含め600以上にわたる。
3 近代刑法は、行為がなければ処罰しないとすることで内心の意思・思想を当初から犯罪概念の外に置くという基本原則を置き、市民の人権侵害に歯止めをかけているが、共謀罪はこの基本原則に抵触し相容れない。一旦共謀が成立すれば、犯罪を思いとどまっても共謀罪は成立するのである。
そもそも、共謀は、「黙示の共謀」(暗に犯罪を示し合わせる)を含むとされ、何をどの程度合意すれば成立するのか不明確で、広汎に拡大解釈される危険性のある概念である。共謀罪は、現実の実行行為が無くても犯罪が成立するために、拡大解釈される危険性がより高い。例えば、組織に属する人間が、犯罪の謀議の場に居合わせて傍観していただけでも、場合によっては共謀罪の疑いを生じかねない。
そして、過去に廃案となった共謀罪法案における「団体」は、暴力団その他犯罪の実行を目的とするものに限定されず、市民団体や労働組合も「団体」に含まれ、共謀罪の制定がその活動を規制し不当に萎縮させる危険がある。この場合、私的領域に国家が介入し、市民の自由な意思疎通を阻害し、ひいては、憲法が保障する思想・良心の自由、表現の自由、集会・結社の自由など基本的人権に対する重大な脅威となりかねない。この危険が国会で議論され、市民の間で反対意見が広がったことから、3度目の廃案の前には、「組織的な犯罪集団の活動」に対象を限定する修正案が与党から出された。これ自体、過去に3回国会に提出された政府提出法案に欠陥があり、共謀罪の不明確性、広汎性の危険性を示すものである。そして、この修正案を前提としても、共謀のみで犯罪を成立させる共謀罪が、拡大解釈の危険を持ち、不当な逮捕の危険等によって、国民の内心の自由や人身の自由という憲法上の人権を侵害する危険性を持つことに変わりはない。
3 そして、共謀の成立は個人の内心の意思に関わり、現実の犯罪結果や犯罪行為から証拠を積み上げられないために、共謀罪の捜査においては、「共謀」を立証するため、市民の日常会話やメールについて広範囲の通信傍受や会話傍受、最終的には監視カメラによる会話の監視をする必要が生じることとなる。その結果、共謀罪捜査は、いわゆるコンピュータ監視法やサイバー犯罪条約等に基づく通信の監視と相まって、捜査機関が国民のプライバシーを容易に侵害し得る監視社会をもたらす危険性がある。
4 以上のとおり、共謀罪は、憲法上保障された基本的人権を侵害する危険が高く、近代刑法の基本原則に反する極めて問題の多いものである。
よって、当会は共謀罪の新設に断固として反対であることを重ねて表明する。
以 上
2015年(平成27年)3月30日
鳥取県弁護士会
会長 佐 野 泰 弘