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【会長声明】少年法改正案に反対する会長声明

 少年法改正については、2017年3月以降、法制審議会において議論がなされ、法制審議会は、2020年10月29日、法務大臣宛ての答申を採択した。その後、政府は、2021年2月19日に少年法改正案(以下、単に「改正案」という。)を通常国会に提出し、現在審議中である。
 法制審議会では、少年法適用年齢引き下げ問題を中心に検討されてきたが、日本弁護士連合会、全国各地の弁護士会をはじめ、様々な個人や団体が引き下げに強い反対をしてきた。
 それを受けてこの度の改正案では、18歳・19歳を「特定少年」と位置付けて少年法の適用があることを明記し、家庭裁判所への全件送致を維持しており、この点については評価できる。
 しかし、改正案には、次のような複数の問題点があり、反対せざるを得ない。

1、原則逆送事件の拡大
 改正案では、18歳・19歳の少年については、原則逆送の対象事件が「死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件」にまで拡大されている点で問題である。
 拡大後の対象事件の中には、犯情の幅が広い類型である強盗罪等も含まれる。被害金額が小さい等の軽微な強盗事案も原則逆送の対象となるが、そのような事案では、公判請求された結果、最終的に全部執行猶予判決になってしまうなど、少年が保護的・教育的手当てを施されることがないまま社会に戻ることになる。これでは、少年に立ち直りの機会を失わせると言わざるを得ず、少年法の目的である少年の健全な育成に反するというべきである。
2、推知報道の一部解除
 改正案では、18歳・19歳が公判請求された場合には、推知報道が許容される点で問題である。
 少年の情報が広まれば、仕事先や居住先を探すことが困難になるなど、更生への大きな妨げになるが、SNSなどで容易に情報を拡散できる現在にあっては、一度、少年の情報が広まれば、それを回復することは極めて困難であり、少年に対する悪影響は計り知れない。
 改正法案では、一度公判請求されても、事情によっては再び家庭裁判所へ送致する余地が残されている。家庭裁判所に送致された後は、推知報道は禁止の対象となるが、送致後にいかに推知報道が禁止されても、公判請求中に推知報道がなされてしまえば、それが広まる危険があるのであり、推知報道を禁止する趣旨に悖る。
3、要保護性に問題があること
(1)行為責任に重点を置いている点
 改正案では、18歳・19歳の少年の場合には、「処分は、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において行わなければならないものとする。」と定め、保護処分の基準として「犯情の軽重」のみを挙げ、行為責任に重点を置いている点で問題である。
 少年法は、可塑性に富む少年の健全な育成を目的としており、そのためには、少年の処遇を決めるにあたり要保護性の観点も極めて重要となる。被害金額の小さい万引き事案等行為責任としては軽微な事案であっても、家庭環境が悪い等要保護性が高いこともあり、場合によっては施設へ収容することが少年の更生のうえで望ましいこともある。改正案では、行為責任に重点を置いており、その結果、保護処分の選択の幅が狭まり、要保護性に応じた柔軟な処遇ができないという事態が生じかねない。
(2)ぐ犯の適用を除外している点
 改正案では、18歳・19歳について、ぐ犯の適用を除外している点で問題である。
 少年の中には、自らは犯罪に及んでいないものの、環境的要因等で今後犯罪に及ぶ危険を有している者が少なからず実態としており、これは、18歳・19歳も同様である。このような18歳・19歳を早期に家庭裁判所の手続きに乗せることで更生に繋がった例も少なくないのであり、ぐ犯を除外することは、立ち直りの機会を奪うことにつながる。
(3)不定期刑、資格制限の特例等の適用除外としている点
 改正案では、18歳・19歳について、不定期刑、資格制限排除の特例等の規定を適用除外としている点で問題である。
 少年法でこれらの規定があるのは、少年の未成熟性、可塑性に鑑み、弾力的な処遇、就労可能性の保持などにより、更生への道を広げ少年の健全な発達を図るためである。改正案においても、18歳・19歳を「特定少年」として位置づけ、その未成熟性、可塑性を認めているのであるから、これらの規定の適用を除外する理由は全くない。

 このように、改正案は、大きな問題を複数抱え、少年の健全育成という少年法の理念を大きく後退させるものであるから、当会は、改正案に強く反対する。

以上

2021(令和3)年4月27日
鳥取県弁護士会
会長 佐 野 泰 弘

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