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労働者保護の基本ルールを撤廃する「高度プロフェッショナル制度」創設に反対する鳥取県弁護士会総会決議

本年4月3日,政府は,第189回通常国会に,「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」(以下,単に「高度プロフェッショナル制度」という。)の創設を含む,労働基準法等の一部を改正する法律案(以下,「法律案」という。)を提出した。政府の説明によれば,「高度プロフェッショナル制度」とは,「職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1000万円以上)を有する労働者が,高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に,健康確保措置等を講じること,本人の同意や委員会の決議等を要件として,労働時間,休日,深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。」である。

以下のとおり,「高度プロフェッショナル制度」は,「過労死促進制度」であること,単なる「残業代ゼロ制度」であり「成果で評価する制度」ではないこと,一度導入された場合多くの労働者に対象が拡大する危険性があること,及び長時間労働を防止する対策が不十分であることから,鳥取県弁護士会は,「高度プロフェッショナル制度」創設に強く反対する。

1 「過労死促進制度」であること

労働者保護の最低限のルールを規定している現行の労働基準法は,労働条件の大原則として,労働時間規制(1日8時間,週40時間),休憩・休日の付与及び時間外労働に対する割増賃金の支払い義務(以下,「労働者保護の基本ルール」という)を規定している。その趣旨は,長時間労働を抑制することで,労働者のワークライフバランスを保ち,労働者の健康で文化的な生活を保障することである。また,昨年11月から施行された過労死等防止対策基本法1条に規定されているとおり,「近年,我が国において過労死等が多発し大きな社会問題になって」おり,その主要な原因のひとつが長時間労働であることから,過労死等の防止のためにも,労働者保護の基本ルールは極めて重要である。

しかし,「高度プロフェッショナル制度」は,一定の要件のもと,労働者保護の基本ルールを全て適用除外にするものである。「高度プロフェッショナル制度」が導入されれば,長時間労働を抑制するための法律上有効な歯止めがなくなり,長時間労働が蔓延し,過労死等の増加を招くことになる。実際,既にホワイトカラー・エグゼンプションが導入されているアメリカでは,残業代ゼロの労働者の方が,残業代が支払われる労働者よりも,長時間労働を強いられている実態がある。

「高度プロフェッショナル制度」は,まさに「過労死促進制度」である。

2 単なる「残業代ゼロ制度」であり「成果で評価する制度」ではないこと

2014年6月24日に閣議決定された「「日本再興戦略」改訂2014」には,「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応える」と記載され,政府は,「労働基準法等の一部を改正する法律案の概要」においても,「高度プロフェッショナル制度」を「成果型労働制」と説明している。これを受けて,多くのメディアも,「高度プロフェッショナル制度」を成果主義賃金制度であるかのように報道している。

しかし,法律案のどこにも,「高度プロフェッショナル制度」が,時間ではなく成果で評価するとは書かれていない。書かれているのは残業代をゼロにすることである。そもそも,成果で賃金を決めることは,現行の労働基準法のもとにおいても可能であり,成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズのために,「高度プロフェッショナル制度」を創設する必要性はない。「高度プロフェッショナル制度」が創設されてしまえば,実際には,使用者から課された成果を得るために,労働者は,残業代ゼロで,際限のない長時間労働を強いられることになる。

「高度プロフェッショナル制度」は,単なる「残業代ゼロ制度」であり「成果で評価する制度」ではない。

3 対象者拡大の危険性

現時点で,「高度プロフェッショナル制度」の対象となる労働者は,年収が1000万円以上のごく一部であり,多くの労働者にとっては,無関係の制度であると思われがちである。

しかし,以下に記載するとおり,「高度プロフェッショナル制度」は,一度導入されてしまえば,今後,多くの労働者に拡大される危険性が高い。そのため,多くの労働者にとっても無関係の制度ではない。

経済界では,「残業代ゼロ制度」への待望が強い。日本経団連は,もともと,対象となる労働者の年収を400万円と想定している(2005年6月21日付「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」)。

「残業代ゼロ制度」は,政府の諮問機関である産業競争力会議などで議論され,2014年6月24日に「日本再興戦略 改訂2014」によって政府の政策方針として閣議決定された。産業競争力会議には,構成員に大企業経営者など使用者側の利益を代表する者が多く含まれている一方で,労働者側の代表者は一人もいない。

本年2月13日,厚生労働省労働政策審議会は,閣議決定された政府の方針に従って,「高度プロフェッショナル制度」の創設を含む「今後の労働時間法制等の在り方について(報告)」を,労働者代表委員の一致した反対意見を押し切る形で取りまとめた。この報告は国会提出法案の基となっている。なお、この報告には,使用者代表委員の意見として「幅広い労働者が対象となることが望ましい」と記載されている。

このように,政府は,経済界の意見を反映する形で閣議決定した方針の下,労働者側の反対意見を押し切って法案を提出しているのである。「小さく生んで大きく育てる」との言葉があるように,ごく一部の労働者を対象としてスタートさせる「高度プロフェッショナル制度」が,今後,経済界の強い要望により,多くの労働者に拡大されていく危険性は高い。

一度規制緩和が行われてしまった場合に,緩和の範囲が徐々に拡大し,原則と例外が逆転してしまう危険性があることは,改正が繰り返され対象が拡大していった労働者派遣法の規制緩和の経緯からも容易に想像できる。実際,1938年からホワイトカラー・エグゼンプションを導入したアメリカでは,対象労働者の範囲が徐々に拡大していき社会問題化し,現在,オバマ政権のもとで規制強化に向けて見直しが行われようとしている。

この度,「高度プロフェッショナル制度」を導入してしまうことは,過労死等がこれまで以上に蔓延し,多くの労働者に残業代が支払われない事態が生じる蟻の一穴となり得るため,極めて危険である。

4 長時間労働の防止策が不十分

「高度プロフェッショナル制度」について,法律案における主な長時間労働抑制策は,①健康管理時間の把握,②「休息時間規制」,「総労働時間の上限規制」,「休日の確保」のいずれか1つの措置を講じること,③労働者の同意を要することである。

しかし,これらの長時間労働抑制策は,実効性が不十分であり,長時間労働の防止策として不十分である。

①健康管理時間(事業場内・外にいた時間)の把握については,厚労省の通達でも「不適正な運用に伴い…使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられる」(平成13年4月6日基発第339号)と指摘され,タイムカード打刻後のサービス残業も多くみられるような我が国の現状からしても,使用者による健康管理時間の把握の実効性には大きな疑問がある。また,そもそも,使用者が労働者の事業場外での労働時間を把握することは困難であることから,実効性がない。これは,現行の労働基準法自体が,使用者が,労働者の事業場外における労働時間の把握が困難である実態を踏まえて,事業場外みなし制度を規定していることから明らかである。

②「休息時間規制」,「総労働時間の上限規制」,「休日の確保」のいずれか1つの措置を講じることについては,具体的内容は省令で定めるとされ,過労死等の防止の歯止めとなり得るか疑問であり,そもそも違反に対する罰則もないため実効性がない。また,いずれか1つの措置を講じれば足りるため,例えば,使用者が労働者に休日なしの労働や超長時間労働を行わせることも可能となってしまう。

③労働者の同意については,そもそも使用者と労働者は対等な関係ではない。「高度プロフェッショナル制度」への同意が,採用時の条件となっていたり,成果主義制度導入の条件とされていたりすれば,労働者は同意せざるを得ないのが通常である。労働者の同意は,制度適用の歯止めとはなりえない。

5 結語

メーデーの起源は,1886年5月1日,アメリカの労働者が「仕事に8時間,休息に8時間,自分の時間に8時間を」というスローガンでストライキに立ち上ったことである。その後,1919年にILO(国際労働機関)の第1号条約で,8時間労働制が規定され,国際的労働基準として確立した。

いま行われるべきは,この原点に立ち返り,実効性ある形で労働時間の上限規制や勤務間インターバル規制の法律を作ることである。

鳥取県弁護士会は,これと逆行する「高度プロフェッショナル制度」創設に強く反対する。

以 上

2015年5月26日

鳥取県弁護士会

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